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やまのかみさつじん

山の神殺人

坂口 安吾

「講談倶楽部 第五巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,014 字 · 21 页

青空文庫

話をきいて、小野刑事はフッとタバコの煙をふいて、

「お題目の様子が神妙すぎると思ったら、やっぱりね。邪教が人をだますというが、この町の連中は邪教をだますのが流行だね。お加久はだませても、オレの目はだませないぞ。不二男の行き先ぐらいは、考えるヒマもいらないさ。一しょに来なさい。つかまえてあげる」

小野は立ち上ると、いきなり外出の支度をはじめた。

小野は平作をうながして、ドシャ降りの中へとびだした。裏通りから露地へまがる。

「シッ。静かに」小野は平作を制しておいて、小さな家の戸口の方へ進んだが、にわかに立ち止った。

「アッ。誰か、人が」

平作にはそんな気配は分らなかった。

「え? どこに? 誰もいないようだが」

「イヤ。たしかに誰かがあッちへ逃げたような気がするが。……こうドシャ降りじゃア、どうも、仕方がない」

小野はあきらめて、小さな家の戸口に立った。表戸をドンドンと叩いて、

「今晩は。大月さん。今晩は」

二十回も戸を叩いたと思うころ、ようやく屋内で人の気配がうごいた。

「夜中に、なアに? 女の一人住いに」

「まだ夜中じゃないよ。九時に二十分前だ。これから三時間もたつと、そろそろ夜中だが」