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やまへかえりゆくちち
山へ帰りゆく父
小川 未明
「中央公論」1923(大正12)年12月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,875 字 · 16 页
今夜も、また、わたしは、その珠のことを思い出して探しにきたのです。」と、その若い女は、答えたのであります。
彼は、この話をきくと、なんとなく体じゅうが、ぞっとしました。女の姿を見ると、長い黒い髪は結ばずに、後ろに垂れていました。
若い、美しい女は、いっしょうけんめいに、足もとの草を分けて、珠を探していました。彼も、また草を分けて、なにかそのあたりに落ちていないかと、熱心にたずねましたけれど、べつになにも見あたりませんでした。
「どんな色の珠でしたか?」
こういって、彼は、顔を上げて、もう一度子細に若い女を見ようとしますと、どこにも女の影は、見えなかったのです。
不思議なことがあれば、あるものだと思って、しばらく彼は、茫然として、たたずんでいました。
月は、西に傾きました。そして、思いなしか、東の空は白んで、どこからか、暁を告げるに鶏の鳴く声が聞こえてきました。もやは、いつしか晴れて、空は青みをまして頭の上に垂れかかっていました。