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やまへかえりゆくちち

山へ帰りゆく父

小川 未明

「中央公論」1923(大正12)年12月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,875 字 · 16 页

青空文庫

父親は、遠い街に住んでいる息子が、どんな暮らしをしているかと思いました。そして、どうか一度いってみたいものだと思っていました。

しかし、年を取ると、なかなか知らぬところへ出かけるのはおっくうなものです。そして、自分の長らく住んでいたところがいちばんいいのであります。

「私は、こんなに年をとったのに、せがれはどんな暮らしをしているか心配でならない。今年こそはいってみよう。」

父親は、遠い旅をして、息子の住んでいる街にやってきました。それは、にぎやかな都会でありました。

静かな、夜などは、物音ひとつ聞こえず、まったくさびしい田舎に住んでいました人が、停車場に降りると、あたりが明るく、夜でも昼間のようであり、馬車や、電車や、自動車が、往来しているにぎやかな有り様を見て、びっくりするのは無理のないことです。父親も、やはりその一人でした。

「お父さん、よくおいでくださいました。」といって、息子はどんなに喜んで迎えたかしれません。

息子はいまでは、この都でなに不自由なく暮らしていられる身柄でありましたから、父親に、なんでも珍しそうなものを持ってきて、もてなしました。