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さんじょうこ

山上湖

豊島 与志雄

「新潮」1949(昭和24)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,912 字 · 22 页

青空文庫

三年以上の親鱒は、肌や鰭に赤みを帯びているのだが、木立をもれる斑らな月光では、ただ黒々と見える。しばらく静かに拝んでいると、魚も寄り集まって静かになる。少しでも身動きすれば、ぱっと散る。なんという敏感なことか。

私達は順々に池を見ていった。

「昼間と同じだね。」

私が黙っていると、平田はまた言った。

「どの池も同じだね。」

いいえ、違う。私はそのことを知っているのだ。昼間とは色も感じも違う。それはともかく、池の形はみな同じでも、中のものはたいへんな違いだ。私はそれに突き当って、もう魚の姿は求めずに、ただ水面に視線を据えた。私は人工受精の作業を何度も見た。上方の建物の中で、毎日行われている。

池の水を半ば切って落し、手網で魚をすくい取り、池に浸してある竹籠に入れる。籠の中の魚は、一匹一匹手掴みにして、腹中の卵が検診される。雌鱒の池のことだ。卵が成熟しておれば、ちょっと腹をしぼると、赤い卵が一粒ずつ放出される。そういうのだけが作業に堪えるのだ。棒切れで頭部を叩けば、魚は痙攣して生態の機能が止まる。それをブリキ箱に一杯並べ、作業場へ運ぶ。直ちに腹を裂いて、卵だけ取り出し、瀬戸引きの鉢に移す。