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いけぶくろのみせ
山之口貘詩文集
山之口 貘
山之口貘『山之口貘詩文集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:池袋の店、沖縄帰郷始末記、おきなわやまとぐち、声をあげて泣く、詩とはなにか、装幀の悩み、つまり詩は亡びる、夏向きの一夜、野宿、暴風への郷愁、私の青年時代、ダルマ船日記、チャンプルー。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,477 字 · 93 页
むろん、その名刺には警視庁巡査と肩書があった。しかし、折角のところ、この証明書は、まもなく使用に耐えなくなったのだ。と云うのは、誰何の折のおまわりさんに詩人巡査の書いた証明書を見せると、かれらは、かえって反撥的になって来て、誰何が執拗になり意地わるくさえなるような傾向を示すのであった。かれらはまるで、その職業意識を刺激されて、いかにも余計なことをするものだと云わんばかりに、詩人巡査の証明書を見るのであった。詩人巡査にしてみれば、そのようなこととは知る筈もないので、かれは、ぼくの顔を見るたんびに、
「あの名刺はまだ持っているのかね。」
などと云って、かれの書いて呉れた証明書が、ぼくのために非常に役立っているかのような想像をしてたのしんでいたのである。
ある夜のこと、八重洲口の交番に、ぼくは詩人巡査を訪ねて、詩の話などをした揚句、今夜は、交番に泊めてもらえないものかとたのんでみた。
「それは駄目だよ。」と詩人巡査は云った。
「駄目かね。」と云うと、
「駄目だね、まずいよ。」とかれは云った。
ぼくは、帰るべきあてもなかったのであるが、交番を出ようとすると、一寸待てよと云って、詩人巡査は電話の受話器を持ったのである。