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いけぶくろのみせ

山之口貘詩文集

山之口 貘

山之口貘『山之口貘詩文集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:池袋の店、沖縄帰郷始末記、おきなわやまとぐち、声をあげて泣く、詩とはなにか、装幀の悩み、つまり詩は亡びる、夏向きの一夜、野宿、暴風への郷愁、私の青年時代、ダルマ船日記、チャンプルー。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,477 字 · 93 页

青空文庫

まもなく、六拾円也の電報為替が届いた。亀重君の家では、大騒ぎをしているに違いないとおもいながら、ぼくらは、早速、汽車に乗った。

東京駅に降りたのは夜なのであった。ぼくは、かねて、亀重君の兄さんが物理学校在学中であることや、富士見町に下宿しているということを亀重君にきいて知っていた。そこで、彼のことをその兄さんの下宿へ届けたいとおもって、そうするようにとすすめるのだが、家出をして来たのであるからと云って、亀重君はかぶりを強く振ったのである。ぼくは困ったのだ。

「ではどうするつもり?」

「どこでもいいからいっしょに連れてってくれまいか」

亀重君は、なさけないことを云って、ぼくを手古摺らしはじめたのである。とは云っても、断るわけにもいかず、ぼくも腹をきめて、まず、ふたりの手荷物を構内の一時預所に預けた。バスケット一個ずつなのである。ぼくは、牛込見附までの切符を買った。亀重君のうえに、万一のことがあってはと心配なので、一応、彼のことを富士見町へ案内し、彼の兄さんの下宿の所在を見せておきたかったからなのである。兄さんの下宿はすぐに発見することが出来た。ぼくは、そこで、もういちど、寄るようにすすめてみたのだが、亀重君は頑としてかぶりを振った。