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いけぶくろのみせ
山之口貘詩文集
山之口 貘
山之口貘『山之口貘詩文集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:池袋の店、沖縄帰郷始末記、おきなわやまとぐち、声をあげて泣く、詩とはなにか、装幀の悩み、つまり詩は亡びる、夏向きの一夜、野宿、暴風への郷愁、私の青年時代、ダルマ船日記、チャンプルー。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,477 字 · 93 页
九月なかばの夜は、南方の郷里ではまだまだ、久葉の扇がさかんにはためいているのであろうが、土管のなかの東京は、すでに涼しすぎるくらいなのだ。しかし、疲れ切ったのであろう。亀重君はすぐに鼾をかき出したのである。卵の割り方ひとつも知らないようなこの坊ちゃんのことを、しかも、彼にとっては初めての東京を、土管のなかに泊めてしまったことを、ぼくは、こころから気の毒におもいながら、自分の上衣を脱いで、そっと、その胸の上にかけて、かんべんしてもらうことにした。そして、明日こそは、亀重君がなんと頑張ろうと、なんとかだましだましして、富士見町の兄さんの下宿まで是非彼のことを送り届けねばなるまいと、ぼくは、寝ながらそのように決心した。
翌朝、土管の両端から、ふたりがのそのそと出ると、牛乳屋さんが振り向き振り向き通り過ぎて行った。ごろごろ転がっている土管の外れに気がつくと、そこには門が立っていた。こんなところに、目白の女子大学はあったのかと、ぼくはそうおもいながら、
「あれが、目白の女子大学なんだ」と云って、亀重君に指差して見せたのである。
(「群像」一九五〇年九月号)