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やまぶきちょうのさつじん

山吹町の殺人

平林 初之輔

「新青年」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,530 字 · 37 页

青空文庫

佐々木の視線はいそがしく活字の上を走った。

「何も出てはいないのですが、犯人が昨日静岡県からか、若(も)しくは静岡県下の駅を通過して東京へ来たものだということがこれでわかるじゃありませんか? 東京ではこの版は売っていませんからね。ところで、私は時間がありませんから、ちょっとこれから駅へ行って見ます」

こう言いながら上野探偵は麦藁(むぎわら)帽子を被(かぶ)って、急いでおもてへ出た。

七

上野は駅へつくと先(ま)ず売店で旅行案内を一冊買った。

待合室には二人の知りあいの刑事が、一人の若い女と笑いながら何か話していたが、上野の姿を見ると、「あっ上野先生だ」と言いながら起(た)ちあがってお叩頭(じき)をした。

「貴女(あなた)が百合子さんですね?」探偵は女の方へむきなおって言った。「はあ」と女は低声(こごえ)で答えた。

「今汽車がつきますから、貴女は相手に見られないように僕のうしろにかくれていて木見という人間を私に教えて下さい。それから、あの男は山吹町の被害者の家へまっすぐに行くにきまっているから、君達も仰々(ぎょうぎょう)しくここであの男を引致するようなことはしないがいいぜ」