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やまつばき
山椿
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1948(昭和23)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,911 字 · 32 页
主馬はそれを聞きながして挨拶を述べ始めた、みちはそっと立っていった。言葉を結ぶと主馬はくだけた姿勢になり、微笑をみせた。
「むずかしい客は帰ったから悠くりやって呉れ、ちょうど雪が降ってきた。よかったら雪をさかなに飲み明かしても結構――河上、まずいこう」
雪と聞いて座の空気が更に浮立った。一人が障子をあけにいった、だがそれだけでは見えない、別の一人が燭台を縁先に持ちだした。庭には椿の老樹が並んでいる、その繁った枝葉や樹下の暗がりが燭台の光りを生かすので、こんどは舞い落ちる雪がかなりはっきり眺められた。
「これはお誂え向きじゃないか、本当に飲み明かすか」
脇田信造がそう云うと、笑い声がどっとあがった。
「なにも開き直ることはない、雪でなくったってその積りで来たんだろう」
「脇田が飲むのに誂え向きでないものは絶対にないね」主馬が珍しく口を出した、「いつかひどい風邪で寝ていたときだ、高い熱でまっ赤な顔をして唸りながら、玉子酒にはお誂えですと云ったからね」
間もなく主馬はそこを立った。――仲人の秦野夫妻を送り出したのは、十二時まぢかのことだ。それから加減をみさせて風呂にはいった。