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さざんか
山茶花
佐左木 俊郎
「文章倶楽部」1927(昭和2)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,001 字 · 10 页
伜に戸主を譲って、一時、ほっとした気持ちになった爺は、また根をつめて働き出した。伜は、財産の少ないのを、自分が無くしたのを、面白くなく思っているのに相違ねえ。いくらでも、この穴を埋めてやらねばならないと思ったからであった。
併し、伜の長作は、決して親の意をないがしろにするようなことはなかった。世間への体裁からばかりでなく、実際に、六十の坂を越してから、なお、働き続けねばならない自分の親を、彼は心の底から気の毒に思って、出来るだけの慰撫を心掛けているのであったが、なぜか長作は、それを露骨に現すことは出来なかったし、そういう言葉を口にすることは、なおさら出来ない性分だった。ばかりでなく、爺があまり馬鹿馬鹿しい苦労などをする時には、むしろ、罵りに近い言葉で制めることがあった。
平三爺は、他所の年寄り達などに比べると、自分が、非常にいたわられているということを知っていながら、伜の心の底に、意地の悪いものがあるように感じた時や、罵りに近い言葉を受けた時には、やはり、非常に寂しい気持ちになった。爺が、山茶花を大切にし、それに自分の慰めを繋ぐようになったのは、それからのことであった。