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さざんか

山茶花

佐左木 俊郎

「文章倶楽部」1927(昭和2)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,001 字 · 10 页

青空文庫

その山茶花は、まだ相当にやっていた頃に、婆さんの植えたものであったが、平三爺の、長い労苦の生涯に、慰めのものとして残ったのは、僅かに、この一本の山茶花に過ぎなかった。この一本の山茶花のほかの何ものをも残し得なかった生涯、六十何年間の、血のにじむような、労苦に満ちた人生だったとも言えるのである。

重苦しい雰囲気の中で、三人は黙り続けていたが、長作は煙草入れを腰にさして炉傍を立った。

「爺つあんの、薬さ混ぜる砂糖、万の野郎が、みんな舐めでしまって無くなったげっとも……」と、おもんは、相談するように言った。

「砂糖なんかいらねえぜ、おら。薬だもの、嚥み辛いのなんか、仕方がねえ。」

「卵が、なんぼか溜まってる筈だべちゃ。そいつでも売らせてや。うむ、万の野郎に売らせで。」

長作はこう言い残して、また納屋の方へ出て行った。

平三爺は、重い溜め息を一つ吐いて、幾日も敷き続けられてある万年床へと立って行った。おもんも跟いて行って、破れて綿のはみ出ている布団を掩い掛けてやるのであった。そしてなお、上から押し付けたり、その辺に脱ぎ捨てられている衣類を、なんでも、手当たり次第に掩い掛けてやるのであった。