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さんけいにいくるひとびと

山谿に生くる人々

葉山 嘉樹

――生きる為に――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,699 字 · 67 页

青空文庫

それどころか、笹本がいる時よりもっと朗になり、燥ぎ出したりした。

それで、いろんな混線が起こった。

「昨夜はお睦さんは、小野さんと、丁場の方へ上がって行って、二時間ばかり帰って来なかった」

「一昨日の晩は、大山さんと川下の方に、四時間も散歩に行ったのにねえ」

「じゃあ、笹本さんがいなくなったから、どこへも出ない時は、誰かときっとおかしいんだわ」

という風な会話が、山の神の連中の間に拡がり、折から留守にしていた、小林の女房が帰って来ると、小野の嬶が焚きつけられたり、大山の嬶が焚きつけられたりして、方々に小さな火花が持ち上がったのである。この小さな家庭争議の火花は、どうかすると、飛んでもない破綻にまで走ってしまうこともある。が、大したことは、お睦の場合では起きないで済んだ。

ここで一つ、面白い(面白いどころか不屈至極だと、叱る人もあるかもしれないが)エピソードを挿ませてもらいたい。

それは、嬶を忘れそこなった。というのである。

おやじも飲んだくれだが、嬶も飲んだくれで、どっこいどっこい、という土方の夫婦がいた。これは一緒になり立ては、さしつさされつアレワイサノサ、とか何とかで、至極、ウマが合ったのだが、夫婦生活には、経済的な問題が重大になって来るので、だんだん暮している中に、お互に十分飲めない羽目になってしまった