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がけしたのいけ

崖下の池

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,109 字 · 25 页

青空文庫

「とにかく、何がいるか、池浚えをやりましょう。会社にポンプもあればガソリンもあります。工員を二三人ひっぱって来れば、充分でしょう。早速とりかかりましょう。」

「まあいいよ。水蓮が花を出さなかったら、その時にしよう。」

「水蓮の花なんか、今年は出ませんよ。」

「いや、きっと出る。」

「出ませんよ。」

出たら、それを見ながらまた酒を飲もう、出なくても、飲みましょうと、そんなことで話を終り、真作は泊ってゆくことになりました。そして、池浚えの一事だけが恒吉の頭に残り、やがて、それが強く思い出されることになりました。

清水恒吉の家から、畠ごしに少し距ったところに、小さな家が一つ建って、夫婦者が住んでいました。罹災前は雑貨商をやってた者で、こんどもさまざまな雑貨を並べ、内々は闇取引をもしていました。そこの主人の大井増二郎が、ちょいちょい清水恒吉のところに顔を出しました。別に用もないのに来ることもあれば、食糧品を持って来ることもありました。

その大井増二郎が、時によって違う話を、言いにくそうに切り出すのでした。

池に金魚をお飼いなさいと勧めました。――池に湧き水がしてるということが、大変よい条件になる。