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がけしたのいけ
崖下の池
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,109 字 · 25 页
ところが、今、あたりは焼け野原となり、その野原には、畠があちこちに作られ、麦の葉がそよぎ、蚕豆の花が咲きそめ、いろんな菜っ葉が伸びだして、つまり、大地の肌が薄汚い人家の古衣を脱ぎすてて真裸となり、春の息吹きをすることが出来るようになりますと、池も水もすっかり新鮮になったようでした。けれどもやはり、恒吉はそこで顔を洗えませんでした。
――俺の方がやはり都会人で、野人になりきれないからだ。
そういう淋しさが却って、池に対する愛着を増させました。
彼は酔うに随って、池のことをいろいろ語り、石についてる苔のことや、水すましのことや、蜻蛉の幼虫のことや、小鮠のことや、水蓮のことや、その他さまざまなことを語りました。朝の太陽が池に映って、その太陽のなかに、竜の姿が……実はたつのおとしごのような姿が、はっきり見えたことなどを語りました。
「それ、その竜の姿は、どんな風でしたか。」
高鳥真作は眼を光らして尋ねましたが、恒吉は笑いました。
「だからさ、たつのおとしご、知ってるだろう、あれみたいなものだと言ってるじゃないか。」
恒吉はもう酔っていました。真作も酔ってきました。