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かわなみ

川波

久生 十蘭

「別冊文藝春秋 第五十一号」1956(昭和31)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,022 字 · 18 页

青空文庫

舌ったらずな口調でいうと、

「あたし、お茶でもいただこうかしら」

と二人の間に割りこんできた。

「あなた、倫子さんの消息、ごぞんじなの、お教えしましょうか」

「クレーデルって船、どこへ行ったかわからなくなって、心配しているんだ」

「クレーデルの話ね。クレーデルがスエズに入港する前の晩、事務長がやってきて、スエズからピラミッド見物に行ったらどうだと、さかんにすすめるんですってよ。倫子さん、そんなもの見たくないから、断ったんですけど、あまりうるさくいうので、伊太利人やスペイン人と十人ばかり組になって、カイロに一晩泊って、翌日、ポートサイドへ行ったら、荷物だけが汽車で送られてきて、船はとうとう来なかったんですって。アデンで客をおろして、漂流準備にかかったというわけなのね」

野坂の娘が一人でしゃべってテラスから立って行くと、豊川は気まずそうな顔でだまりこんでいたが、いいほどに落葉のたまった歩道のほうをながめながら、

「シベリヤと印度洋と、二た手に別れて駆落ちしたって、それで、どうなるものか」

と、ちがうひとのような感情のこもった声でいった。

「そんなたわけたことじゃなかったんだ。