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かわなみ
川波
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第五十一号」1956(昭和31)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,022 字 · 18 页
二人だけで、旅をしたいと思わないこともなかったが、三池と正式に離婚するまで、慎しむべきところは慎しもうと、倫子と申しあわせたもんだから」
「そんならそれでいいじゃないか。おれはなにも言いはしないよ。そんなことだろうと察してはいたが……それで、三池は離婚しそうな希望があるのか」
「三池は巴里へ来ているんだろうが、倫子をつかまえて出さないところを見ると、どうも、だめらしい」
むっとしたような顔で、電話に立って行ったが、十分ほどして戻ってきた。
「三池は倫子を連れて、昨日の十七時の便でロンドンへ帰ったらしい。いずれ、こうなることはわかっていたが、こんな状態で、四、五年、ひき分けられるのは困るのだ」
「すぐあとを追って行けばいいだろう。なにか言い残したことがあるなら」
「そうはいかない。明日はサントニア島の砂鉄のオプション(入札参加権)の最後の日で、八時二十分のトゥルーズ行でマドリッドへ出張する命令を受けている。特殊勤務要員は軍法会議から除外されているが、命令棄却は機密漏洩より罪が重い。手形ぬきの正貨取引で、アパルトマンの裏庭にひきだされ、頭蓋骨に四五径の拳銃弾のブローカー・レージがつくんだ……クロイドン行の一便の座席を予約したが、それをやると、えらいことになる」