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じゅんさじしょく
巡査辞職
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年11~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页
この夏限りに死ぬというキチガイじみた蝉の声々が、あっちの山々からこっちの谷々へと、真夏の雲の下らしい無味乾燥なオーケストラを荒れまわらせ、溢れ波打たせて、極端な生命の狂噪と、極端な死の静寂との一致を、亀裂だらけの大地一面に沁み込ませて行くのであった。
その小高い丘の木立の中に、森閑と雨戸を鎖した兇行の家……深良屋敷を離れた草川巡査は、もうグッタリと疲れながら、町から到着した判検事の一行を出迎えるべく、佩剣の柄を押え押え国道の方へ走り降りて行った。
本署からは剛腹で有名な巨漢の司法主任馬酔警部補と、貧相な戸山警察医のほかに、刑事が二名ばかり来ていた。検事の名前は鶴木といって五十恰好の温厚そうな童顔禿頭の紳士、予審判事は綿貫という眼の鋭い、痩せた長身の四十男で、一見したところ、役柄が入れ違っているかのような奇妙な対照を作っていた。そのアトから腎臓病で腫んだ左右の顳に梅干を貼った一知の父親の乙束区長が、長い頬髯を生した村医の神林先生や二三人の農夫と一緒に大慌てに慌てて走り上って来たが、物々しい一行の姿にスッカリ魘えてしまったらしく、一人も家の中に這入ろうとする者は無かった。