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じゅんさじしょく

巡査辞職

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页

青空文庫

今更の事のようにメソメソ泣きながら出迎えた一知夫婦と一緒に、一言も口を利かないまま、井戸端の混凝土の上に並んで突立って、検事や、予審判事や、警官連の行動をオドオドと見守ってばかりいた。

一行の取調は極めて簡単であった。

一行は既に区長の処へ立寄るか何かして色々の話を聞いて来ているらしく、馬酔司法主任が途中で一知をチョット物蔭へ呼んで、何かしら二三質問をしただけで、草川巡査の報告なぞは検事の耳に入る迄もなく、例によって例の如き司法主任の独断の前に一蹴され、冷笑されてしまったらしい。

疑いもない強盗殺人で、新夫婦が熟睡して気付かぬ間に演ぜられた兇行に相違ない。そんな例は今までにも随分多い事が経験上わかっている。むろん高飛をする前科者か何かが旅費に窮するか何かしての所業であろう。淋しい一軒家で、相当の資産家である事は人の噂でもわかるし、毎晩夕方に点しているという五十燭の電燈も、国道を通りかかった者の注意を相当に惹く筈である。足跡の無いのは敷石ばかりを踏んで出入したせいに相違ない……という事になったらしい。泣きの涙でいる新夫婦が、司法主任や刑事たちからシキリに慰められながら、何度も何度もお辞儀をするのにつれて、父親の区長や村民たちまでもがペコペコと頭を下げ初めた。