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じゅんさじしょく

巡査辞職

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页

青空文庫

引ったくるようにその一枚を貰って、その足で鶴木検事を裁判所に訪問し、折柄、宣告を澄ましたばかりの検事に裁判所の応接室で面会をすると、その写真を手渡ししながら自分の見込をスッカリ打明けた。

意気込んでいる草川巡査の吶弁を、法服のまま静かに聞き終った禿頭、童顔の鶴木検事は草川巡査の質朴を極めた雄弁にスッカリ釣込まれてしまったらしい。草川巡査と同じように憂鬱な顔になって、両腕を深々と胸の上に組んだ。

「つまりその砥石の上で刃物の柄を撞着いて、抜けないようにしたと云うのですな」

「そうです。そのほかに今申上げましたようなラジオや、戸締りに関する一件もありますので、テッキリ犯人と睨んでいるのですが」

「どうも……意外千万な推測ですな」と検事は苦り切って腕を組み直した。「……只今では最後の懸案として、あの区長の動静について注意しているのですが」

「ハイ。私も署長からその指令を受けましたので十分に注意して見ましたが、区長は絶対に、そんな事の出来る人間ではありませぬ。むしろ自分の息子を養子に遣った家から補助を受けたりする事を潔しとしない、純粋な性格の男です。目下、東京で近衛の中尉をしております長男からも、その一知から金を借りない趣旨に賛成の旨を返事して来ております。