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じゅんさじしょく
巡査辞職
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年11~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页
そうしてマユミを中心にした自分の一生涯の幸福の夢を色々と描いていたが、しかし生れ附き内気な、臆病者の一知はそんな事をオクビにも出さずに、どうかしてマユミを吾が物にしたいと明け暮れ考えまわしているだけであった。だからほかの青年達と一緒になってマユミを張りに行って、マユミやその両親達の信用を失うような軽率な事は決してしなかった。一知の幸運の獲得手段はドコまでも陰性で消極的であった。
その一知の幸福の夢を掻き破るものは、いつもマユミの両親たちであった。一知がマユミと一緒になって世にも幸福な日を送っている幻想を描いている最中に、いつも横合いから現われて来て、その幸福を攪乱し、冷笑し、罵倒し、その幻想の全体を極めて不愉快な、索然たるものにしてしまうのはマユミの父親の頑固な恰好をした禿頭と、母親の狼みたような乱杙歯の笑い顔であった。一知はマユミの両親が極度に浅ましい吝ん坊であると同時に、鬼とも獣とも譬えようのない残酷な嫉妬焼きである事を、ずっと以前から予想していた。
一知はマユミとの幸福な生活を夢想する前に、何よりも先ずマユミの両親をこの世から抹殺する手段を考えなければならなかった。