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しみんのせいかつとかがく

市民の生活と科学

宮本 百合子

「科学ペン」1940(昭和15)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,385 字 · 9 页

青空文庫

そのことも考えられる。

現在の私たちが生きている世界の空気の中で、もし科学教育やその知識の大衆化が、応用的な面でだけとり上げられるとしたら、そこには大きい後退が生じるだろうと思う。ラジオの短波は科学的発達の一定段階に立ってはじめて人間の支配下におかれた現象であろうが、それが今日大衆の日常の裡に血肉化されているかと云えば、そうではないのが現実である。短波がどうであろうと、一見民衆の生活にかかわりないようないきさつに置かれている。動力の科学的進歩のことにしても、自動車がガソリンでなく薪で走って、坂にかかると肥桶を積んだ牛車に追いこされるという笑話が万更嘘ばかりでもない今日、現象として科学の発達のよろこびは皮肉と苦笑とを誘って実感から遠いものとなるのはやむを得まい。台湾旅客機エンボイ機が台北の北方七星山麓で遭難して八名の乗客操縦者全滅したのは三月十二日ごろのことであった。「日航」は当日の暴風と濃霧によって進路測定に誤差が生じたことを遭難の原因として詳細に地理的に報告した。そして「民間航空発展の貴い人柱」となった人々への哀悼、遺族への慰問の責任を表明した。