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いちろうのみせ
市郎の店
豊島 与志雄
「國民六年生」1942(昭和17)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,067 字 · 9 页
お母さんが病気で、よそのおばさんにまかせっきりだから……。」
「監督……はよかったね。まあ、なんにしても、結構だ。僕は君の友だちから聞いて、感心したよ。夜店にまで出る勇気があるのは、立派なことだ。」
「人が何といおうと平気ですが、でも……。」
「何だね。」
市郎は、やさしい山川さんの笑顔を見て、貝殻が少しも売れないことの不平をうちあけました。
それを話しているうちに、なんだか情けなくなってきました。
「おばさんにも笑われるし、お母さんも……笑ってるようです。困っちゃった……。」
山川さんは暫く黙って考えていました。そしていいました。
「その貝殻は、よく磨いたかね。」
「ええ、ぴかぴか光ってるんですよ。」
「うーむ、そりゃあそうだろうが、しかし、ただ並べただけではだめだね。」
そして山川さんはまた暫く考えていましたが、急に眼を輝かしていいました。
「よいことを教えてやろう。貝殻を並べておいて、そのわきで本なんか読んでいては、売れないね。こうするんだ。まず幾つか、よく磨いたのを並べておいて、少しでいいんだよ、そして、そこに君は腰掛けて、入れ物の中からほかの貝殻を一つ取って、せっせと拭いたり磨いたりするんだ。