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ほ
帆
宮本 百合子
「文芸春秋」1927(昭和2)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,973 字 · 25 页
と、真面目に云った。
藍子は、女のそういう下心が憎めないような、単純さに微笑まれるような気がした。その万年筆というのは、藍子が自分用に丸善で買ったが、ペン先が堅すぎるので尾世川にやった、それなのであった。
出がけにちらちらだった雪が、帰途には熾に降りしきった。空からドンドン降るのを見るとまるで灰みたいなものが、地面から或る距離のところまで落ちて来ると、急に真白な牡丹雪となる。藍子はそれが面白く、降る雪のはやさと競争するように歩いて尾世川の家へ廻った。
「いよう! えらい元気ですね」
「――あすこへ行って来ましたよ」
「え?」
尾世川は愕いて、雪がついている藍子の髪やコートを眺め廻した。
「行らっしたんですか? 湯島へ?」
「雪見がてら行ったんだけれど、やっぱり貴方でなくちゃ駄目だそうです」
藍子は、女の様子や伝言をつたえた。藍子は、
「結局私の行った心持なんか通じなかったらしい――女は女を当にする気のないもんですね」
と苦笑した。
「それに、あの万年筆のありかが判りましたよ。あの人があずかっているそうじゃありませんか」
「や、そうですか? どうりで、いくら探してもないと思った。