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おびひろまで

帯広まで

林 芙美子

「文藝春秋」1936(昭和11)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,656 字 · 28 页

青空文庫

伊代は街の中央にある小さい百貨店へ松子と云う朋輩と一緒に連れられて行った。眉の濃い眼の深い女を見ると伊代はドキリとした。どの女もあいぬ系の女に見える。情熱的で静かな表情の女達が、伊代の眼に次々とはいって来る。天井には乾いた音をたてて造花のへちまの葉が鳴っていた。こゝでも、伊代は帯広の街の女のひと達の顔を次々といじりまわした。肌の白い眉の濃い女が来ると、伊代の心の中には何とない憎しみが湧いた。

「毛穴を整えますし、皺をのぞきますので、心からお奨めするのでございます」

話しながらもうわの空であった。心のうちでは、同じ街に住んでいる気持ちの痛さに、九太の面影を描き続けているのであった。眉の濃いモデルが来ると、そんな眉なんか塗りつぶしてくれると云った様子で、伊代は濃く眉毛を塗ってやった。それでも、その女は自分の顔を大事そうにして帰って行った。伊代は仕事を済ませて宿へ帰ると、すぐ電話口に立った。灯の暗い廊下の隅の電話口なので伊代には好都合である。足先きが震えた。一番大きいOと云う小舎にかけてみた。

「楽士で、野口九太さんはおりますでしょうか?」女案内人の声で一寸お待ち下さいと応えると、