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ばくまついしんかいこだん

幕末維新懐古談

高村 光雲

39 牙彫りを排し木彫りに固執したはなし

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,763 字 · 6 页

青空文庫

手間が細かくって、手数ばかり掛かる木彫りよりか、一つ、どうです。象牙の方をおやんなすっちゃ……」

など、親切にいってくれますが、私はぶきようで象牙などは到底彫れませんと断わり、碌にその方の話の相手にはならず逃げておりました。

その後、或る日のこと、沢田の奉公人が、風呂敷に二尺五、六寸ほどもある長い棒を包んだものを持って来ました。

「これをお預かり下さい。後刻主人が参りますから」

そういって帰って行きました。

私は一目見て、その風呂敷の中には、何が這入っているかが分りました。それは無論象牙の材である。

「ハハア、とうとうやって来たな」と私は思いました。

所へ、沢田の主人が来た。

「この象牙は熨斗を附けて差し上げます……」

という前置きで、沢田氏のいうには、

「今日は是非一つ象牙を試みて頂きたく出ましたわけで、かねがね申し上げたが御承知のない処を見ると、象牙に経験がないから謙遜してのお断わりかと思いますが、この材を差し上げることにしまして、彫って御覧になり、思うように行かなくても、御自分の材なら御心配はない。何んなりとお試しに勝手に彫って下さい。そうしてお気に入ったものが出来ましたら、手前の方へお廻し下さい。