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ゆうれい

幽霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,972 字 · 24 页

青空文庫

一つは新しく知合いになった青年が仲々面白い話相手だったことも、彼を引止めるのに与って力があった。

その青年が今日も又彼の部屋を訪れた。そして、突然変に笑いながらこんなことを云うのだった。

「もうどこへいらっしゃっても大丈夫ですよ。幽霊は出ませんよ」

一瞬間、平田氏はその言葉の意味が分らなくてまごついた。彼のあっけにとられた様な表情の中には、痛い所へ触られた人の不快が混っていた。

「突然申上げては、びっくりなさるのも御尤もですが、決して冗談ではありません。幽霊はもういけどってしまったのです。これを御覧なさい」

青年は片手に握った一通の電報を拡げて平田氏に示した。そこにはこんな文句が記されていた。

「ゴメイサツノトオリ一サイジハクシタホンニンノシヨチサシズコウ」

「これは東京の僕の友人から来たのですが、この一サイジハクシタというのは、辻堂の幽霊、いや幽霊ではない生きた辻堂が自白したことですよ」

咄嗟の場合、判断を下す暇もなく、平田氏はただあっけにとられて、青年の顔とその電報とを見較べるばかりであった。

「実は僕はこんな事を探し歩いている男なんですよ。この世の中の隅々から、何か秘密な出来事、奇怪な事件を見つけ出しては、それを解いて行くのが僕の道楽なんです」