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ゆうれい
幽霊
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,972 字 · 24 页
平田氏はいきなりガチャンと受話器をかけると、暫くの間じっと一つ所を見詰めて身動きもしないでいた。そうしている内に、何とも形容出来ない恐しさが、心の底からジリジリと込み上げて来た。……あれは聞き覚えのある辻堂自身の笑声ではなかったか……平田氏はその卓上電話器が何か恐ろしいものででもある様に、でもそれから目を離すことは出来ないで、あとじさりにそろそろとその部屋を逃げ出すのであった。
平田氏の不眠症は段々ひどくなって行った。やっと睡りついたかと思うと、突然気味悪い叫声を立てて飛び起る様なことも度々あった。家族の者は主人の妙な様子に少からず心配した。そして医者に見て貰うことをくどく勧めた。平田氏は、若し出来ることなら、丁度幼い子供が「怖いよう」といって母親にすがりつく様に、誰かにすがりつきたかった。そして、この頃の怖さ恐しさをすっかり打明けたかった。でも流石にそうもなり兼ねるので「ナアニ、神経衰弱だろう」といって、家族の手前をとりつくろい、医者の診察を受けようともしなかった。
そして又数日が過去った。ある日のこと、平田氏の重役を勤めている会社の株主総会があって彼はその席で少しばかりお喋りをしなければならなかった。