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じょにかえてじんせいかんじょうのしぜんしゅぎをろんず

序に代えて人生観上の自然主義を論ず

島村 抱月

「近代文芸之研究」1909(明治42)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,453 字 · 11 页

青空文庫

三

こういう次第で心内には一も確固不動の根柢が生じない。不平もある、反抗もある、冷笑もある、疑惑もある、絶望もある。それでなお思いきってこれを蹂躙する勇気はない。つまりぐずぐずとして一種の因襲力に引きずられて行く。これを考えると、自分らの実行生活が有している最後の筌蹄は、ただ一語、「諦め」ということに過ぎない。その諦めもほんの上っ面のもので、衷心に存する不平や疑惑を拭い去る力のあるものではない。しかたがないからという諦めである。

三

ここまで回顧して来て、いつも思い悩むのはその奥である。何が自分をして諦めさせるのだろう。私に取ってはそれが神の力でも信仰の力でもなくして、実に自分の知識の力である。もしみずから僣して聡明ということを許されるなら、聡明なからである。仮に現在普通の道徳を私が何らかの点で踏み破るとする。私にはその後のことが気づかわれてならない。それが有形無形の自分の存在に非常の危険を持ち来たす。あるいは百年千年の後には、その方が一層幸福な生存状態を形づくるかも知れないが、少なくともすぐ次の将来における自己の生というものが威嚇される。単身の場合はまだよいが、同じ自己でも、妻と拡がり子と拡がった場合には、いよいよそれが心苦しくなる。