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しょみんのたべもの

庶民の食物

小泉 信三

「あまカラ 新年号 第六十五号」甘辛社、1957(昭和32)年1月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,974 字 · 4 页

青空文庫

いたずらに高価な、季節外れの珍味などを出されることなど、好きでない。凝ったもの、ヒネッたもの、変ったものはすべて敬遠するほうである。さして変った物というほどではないが、蝸牛や蛙も御免をこうむりたい。知らずに食うことのないようにと、シナ語の田鶏、フランス語の Grenouille が蛙であることを、私は夙くから調べて用心している。先年、東京のある料理屋で、加賀の白山の狸汁というものを出されて、腹を立てたことがある。第一、汁の味である。私には臭くて、脂こくて喉を通らなかった。けれども、それは好き好きだから、これが結構だというものを、強いて留める必要はない。ただその狸を、加賀白山の産とことわったのは、どういうことだろう。これが松阪の牛肉だとか、何川の鮎とかいうなら誰にもわかることで、それをことわる理由もあるだろうが、人間の常食でない狸の肉に、特にその産地を掲記する主人の心理はどんなものであろう。どうもそこにコケオドカシがあるように思われて、辛抱しかねた。当時そこのことをちょっと書いたら、幸田露伴が見たということで、至極同感だと、人伝てにいって寄越してくれた。