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きゅうどうちゅうそでん
弓道中祖伝
国枝 史郎
「キング」1932(昭和7)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,647 字 · 19 页
「うむ」と思わず声を上げ、その箭を取ったが眼を据えて見た。その正次の眼の前に、――だから正次の背後横に、髪は垂髪、衣裳は緋綸子、白に菊水の模様を染めた、裲襠を羽織った二十一二の、臈たけた美女が端坐していた。
「貴女は?」と正次は驚きながら訊ねた。訊ねながらも油断無く、弦に矢筈をパッチリと嵌め、脇構えに徐に弦を引いた。
「この家の主人にござります。……」
「では先刻の……今様の歌主?」
云い云い八分通り弦を引き、
「ご姓名は? ……ご身分は?」
「楠氏の直統、光虎の妹、篠と申すが妾にござります」
「おお楠氏の? ……さては名家……その由緒ある篠姫様が……」
ヒューッとその時数條の箭が、敵方よりこなたへ射かけられた。と、瞬間に正次の眼前、数尺の空で月光を刎ねて、宙に渦巻き光る物があった。
「おッ」――キリキリと弦を引き、さながら満月の形にしたが「おッ」とばかりに声を洩らし、正次は光り物の主を見た。一人の老人が小薙刀を、宙に渦巻かせて箭を払い落とし、今や八双に構えていた。
「や、貴殿は? ……」
「昼の程は失礼」
「うーむ、和田の翁でござるか」
「すなわち楠氏の一族にあたる和田新発意の正しい後胤、和田兵庫と申す者。