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かげのないはんにん

影のない犯人

坂口 安吾

「別冊小説新潮 第七巻第一二号」1953(昭和28)年9月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,032 字 · 23 页

青空文庫

実は、その、並木先生の問題ですが、先生が一服もるなんてとんでもないです。そもそも医者は毒薬に通じておりますから、毒殺すれば必ずバレることを知っております。ですから、毒殺は素人が用いる手口でして、ボクは探偵小説をよんでおりますから――もっとも、医者が毒殺の手口を用いた例も二三ありますけど――そういえば、かなり、あったかな。昔読んだのは忘れちゃった。奥さんも探偵小説の愛読者だから、ごまかせねえかな」

「私が並木先生をおことわり致しましたのは先生のお見立がオヘタでいらッしゃるからですよ。いかに探偵小説を愛読いたしましても、まさか先生が一服おもりになるなんて考えやしませんわ」

「じゃア、ケンギ晴れたんですか」

「狂六先生、シッカリしてよ。ボクまで恥ずかしくなッちゃうよ」

「そうか。見立てがオヘタだから、と。つまり、そうか。これは、決定的だな」

「そうですよ。まさに、文句ないです」

「ウーム。アイツはヤブだからな。どうして当家の先代はあの先生に学資をだしたんでしょうね。ムダなことをしたもんだなア」

「アナタの一刀彫の手並も似たもんじゃないですか。ムダなことをしてるなアと誰かがきっと云ってますよ」