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かげのないはんにん

影のない犯人

坂口 安吾

「別冊小説新潮 第七巻第一二号」1953(昭和28)年9月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,032 字 · 23 页

青空文庫

殺人事件の巻

「よせよ。キミはうるさいなア。全然オレはキミと会話してるじゃないか。キミと会話するんだったら、こんな無理しなくとも、いつでも、できるじゃないか。今日は全然ダメだ。奥サン失礼いたしました」と狂六は苦心のカイもなく、退却せざるを得なかったのである。

殺人事件の巻

ところが、一月ばかり床についたのち、一作氏はなんとなく死んでしまったのである。

「どうも、変ですなア。主治医として、まったく面目ありませんが、病因がハッキリ致しません。はじめは高血圧のせいで、他にさしたることはないように考えとったのですが……」

と並木先生の代りに選ばれて診察に当った太田先生が葬式がすんだ後になって、光一にもらしたのである。

「すると、他殺だという意味ですか」

「イエ。そうじゃないです。ともかく、解剖して病因をたしかめるべきだったかも知れないというだけです」と、太田先生はごまかしたが――ごまかしたわけでもないが、光一がネチネチと追求すると、結局ごまかしたような結論になってしまうのである。

「ねえ、先生、なにか特殊な毒薬を用いた場合に、専門のお医者が見ても、外部からでは毒殺かどうか見分けがつかないような薬品といったらどんなものがあるでしょうか」