轻松读懂日语经典作品
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かれはむかしのかれならず
彼は昔の彼ならず
「世紀」1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,274 字 · 57 页
豹変という言葉がありますね。わるくいえばオポチュニストです。」
「天才だなんて。まさか。」マダムは、僕のお茶の飲みさしを庭に捨てて、代りをいれた。
僕は湯あがりのせいで、のどが渇いていた。熱い番茶をすすりながら、どうして天才でないことを言い切れるか、と追及してみた。はじめから、少しでも青扇の正体らしいものをさぐり出そうとかかっていたわけである。
「威張るのですの。」そういう返事であった。
「そうですか。」僕は笑ってしまった。
この女も青扇とおなじように、うんと利巧かうんと莫迦かどちらかであろう。とにかく話にならないと思ったのだ。けれど僕は、マダムが青扇をかなり愛しているらしいということだけは知り得たつもりであった。黄昏の靄にぼかされて行く庭を眺めながら、僕はわずかの妥協をマダムに暗示してやった。
「木下さんはあれでやはり何か考えているのでしょう。それなら、ほんとの休息なんてないわけですね。なまけてはいないのです。風呂にはいっているときでも、爪を切っているときでも。」
「まあ。だからいたわってやれとおっしゃるの?」
僕には、それが相当むきな調子に聞えたので、いくぶんせせら笑いの意味をこめて、なにか喧嘩でもしたのですか、と反問してやった。