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かれはむかしのかれならず
彼は昔の彼ならず
「世紀」1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,274 字 · 57 页
声をかけると、誰? という青扇のかすれた返事があった。
「僕です。」
「ああ。おおやさん。おあがり。」六畳の居間にいるらしかった。
うちの空気が、なんだか陰気くさいのである。玄関に立ったままで六畳間のほうを頸かしげて覗くと、青扇は、どてら姿で寝床をそそくさと取りかたづけていた。ほのぐらい電燈の下の青扇の顔は、おやと思ったほど老けて見えた。
「もうおやすみですか。」
「え。いいえ。かまいません。一日いっぱい寝ているのです。ほんとうに。こうして寝ているといちばん金がかからないものですから。」そんなことを言い言い、どうやら部屋をかたづけてしまったらしく、走るようにして玄関へ出て来た。「どうも、しばらくです。」
僕の顔をろくろく見もせず、すぐうつむいてしまった。
「屋賃は当分だめですよ。」だしぬけに言ったのである。
僕は流石にむっとした。わざと返事をしなかった。
「マダムが逃げました。」玄関の障子によりそってしずかにしゃがみこんだ。電燈のあかりを背面から受けているので青扇の顔はただまっくろに見えるのである。
「どうしてです。」僕はどきっとしたのだ。
「きらわれましたよ。