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おほりばたさんだい
御堀端三題
岡本 綺堂
柳のかげ「文藝春秋」1937(昭和12)年8月、怪談「モダン日本」1936(昭和11)年9月、三宅坂「文藝春秋」1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,863 字 · 12 页
彼女は痩形の若い女であるらしかった。
正体は見とどけたが、不安はまだ消えない。私は黙って歩き出すと、女はやはり附いて来た。私は気味の悪い道連れ(?)を後ろに脊負いながら、とうとう三宅坂下まで辿り着いたが、女は河獺にもならなかった。坂上の道は二筋に分れて、隼町の大通りと半蔵門方面とに通じている。今夜の私は、灯の多い隼町の方角へ、女は半蔵門の方角へ、ここで初めて分れ分れになった。
先ずほっとして歩きながら、更に考え直すと、女は何者か知れないが、暗い夜道のひとり歩きがさびしいので、恐らく私のあとに附いて来たのであろう。足の早いのが少し不思議だが、私にはぐれまいとして、若い女が一生懸命に急いで来たのであろう。更に不思議なのは、彼女は雨の夜に足駄を穿かないで、素足に竹の皮の草履をはいていた事である。しかも着物の裾をも引き揚げないで、湿れるがままにびちゃびちゃと歩いていた。誰かと喧嘩して、台所からでも飛び出して来たのかも知れない。
もう一つの問題は、女の着物が暗い中ではっきりと見えたことであるが、これは私の眼のせいかも知れない。幻覚や錯覚と違って、本当の姿がそのままに見えたのであるから、私の頭が怪しいという理窟になる。