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おうまじるしはいしゃく
御馬印拝借
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年2月号
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 21,483 字 · 43 页
三
のを待って、その中のひどく嵩張る荷をひと包だけ別にした、なにが入っているのか、重くはないがひどくかさばかりある包だった、「……末吉、末吉孫兵衛はいるか……」源七郎は低いこえで一人の若者を呼びよせると、「これをそのほうの組で頂上まで運べ、大切にするんだぞ」そう云ってその包を孫兵衛にわたした。
三
午前三時を過ぎた。じゅうぶんに休息したうえ、軽装になった兵たちは二手にわかれ、砦の西と南から急な斜面を匍匐してじりじりと塁に迫った。いよいよ雨のあがるしらせだろう、遠く東のほうに雷鳴が聞え、あたりは幕を張ったように霧が巻きはじめた、……その濃霧のなかに、息をころして這い登ってゆく兵たちの、合印の白い肩布がちらちらと見えつ隠れつする、頂上の石塁はもう目前に迫ったが、そこにはなんの物音もなく、ひっそりとして人のけはいも感じられなかった。……源七郎は南がわから五十人を率いて登ったが、やがて高く右手をあげてうち振った、先鋒の斬り込む合図だ、五人の銃手が鉄砲をあげていちどに射った、深閑たる暁闇をつんざいて火がはしり、谷々にこだまして銃声が轟きわたった、そして西がわから百人の先鋒が切尖をそろえて塁壁へおどり込んだ