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おうまじるしはいしゃく

御馬印拝借

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年2月号

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 21,483 字 · 43 页

青空文庫

と答えた前後のところは文字もみだれているようで、いかにも切ない気持があらわれていた。……ひとすじに思い詰めたる御ようすなり、必死をかくごの御出陣と申し、いかにもいやとは申上げられず、夢うつつの如くはいとお答え申し候ことにござそろ、あなたさまへはお詫びの致しようもなき不始末、信夫の身にもとりかえし難き、……そこまで読んできた源七郎は、あとの文字を見るに堪えなくなって卒然と文を措いた、かれは片手で額を押え、低く呻きながら眼をつむった。はじめて謎が解けた、……信夫は自分と未来を云い交わしてある、そう云った虎之助の言葉が今こそよくわかる、たとえそれが虎之助のひとり合点だったとしてもその言葉に嘘はなかった、「……うん」源七郎はもういちど呻いたが、それからしずかに立って塁を出てゆき、望楼へと登っていった。深夜の望楼で、かれは独りなにを考えたのであろうか、それは信夫がいじらしいというただひとつの想いだった、そのとき「はい」と答えた信夫の心理が、源七郎には痛いほどあざやかに推察できる、ほかの者ならいいえと云えたであろう、事情は話せないまでも帰陣のうえでというくらいは口にした