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おうまじるしはいしゃく
御馬印拝借
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年2月号
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 21,483 字 · 43 页
最上の策だ、そう思ってひそかに本陣の御馬印を摸作して来た、しかし敵がその策に乗るかどうかはなかば疑わしかったのである、それが僥倖にも図に当ったのだ、敵はみごとに誘い込まれて来たし、味方の兵たちは御本陣の馬印の下で死ねるという、思い設けぬ幸運のために士気百倍した、あとはただ傾いてきたこの戦の方向を捉んで放さなければよい、味方の一人ひとりが、さいごの一人が討死するまで、がっちりと敵をひきつけて戦うのだ、……おちついてゆこう、日没まで時刻はたっぷりある、源七郎はそう呟きながら望楼へあがっていった。
銃射にはじまった敵の攻撃は、時の移るにしたがって徐々と接近戦になり、午前十時ごろにはいちど敵の槍隊が塁下の濠まで突っ込んで来た、しかし源七郎はあくまで守勢をとり、適宜に矢弾丸をうちこむだけで、敵の誘いに乗ることをきびしく抑えつけていた。探りと誘いを兼ねた襲撃が幾たびかおこなわれ、陣構えもしだいに近接して来た。灼けつくような日光がぎらぎらと照りつける下で、硝煙が舞い立ち、銃声と鬨のこえが谷間にこだました、前進して来た敵は砦を東南から囲み、半円を随時に縮めながら、烈しい