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おたか

御鷹

吉川 英治

「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,767 字 · 18 页

青空文庫

ただ、もう彼女に対して、何も飾る必要を感じなくなった角三郎のそれはほんとの自分を見せたに過ぎない舌打ちなのである。

『――な。陽が暮れてくる、中風の白翁は、娘自慢、どうしたかと、縁先から首をのばしているだろうから早く戻ってやれ、それでも、公儀の御役は有難いものだ。鳥見組頭という家格があればこそ、近いうちに、おれのようなよい聟が入る。……だが、聟だなどと、云って、待遇が悪いと居てやらないぞ』

疎林の下はもうほの暗かった。白骨のならんでいるような樹々の肌を見ると、お悦は、地獄の八寒をさまよっている気がした。

『そう、あいつは、こっちへ貰っておこう。――お悦、吹雪の脚に結いつけてあった手紙、おれによこせ』

『…………』

無言で、帯の間に、皺になっているそれを角三郎の手へわたすと、

『も一つのほうも』

『これだけでした』

『これだけ? ――これだけなものか――ほかに、もう一通、弁馬の奴からよこした猪口才な果し状も、紙捻のように縒って、結いつけておいたのだ。――彼奴が、お悦は、自分の子を懐妊しているのだと、それには広言して書いてあるから、おまえに見せる為わざとそれと共に結いつけておいたのだ』