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おたか

御鷹

吉川 英治

「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,767 字 · 18 页

青空文庫

三

生涯の薬だ』

『中里お鳥見組の役を勤めるには、弁馬は、未熟だと仰っしゃるので』

『いや、御鷹をあつかわせては、黄瀬川弁馬は、一人前じゃろう。――だが、まるで貴様は、世間を知らんじゃないか。父が、こうして有らっしゃるうちはいいが、貴様が黄瀬川家をつぐとなったら後々が思いやられるのだ。――修業というのは、何も、御鷹の飼い方や、あつかいを習えというのじゃない。それならば何も、将軍家の御鷹をあずかる中里御鳥見の家にいて、立派に一かどの鷹匠になれるんじゃからのう』

『そんなに、この弁馬は、世間知らずでしょうか』

『成っておらんよ、貴様は』

『ははあ』

『不服そうだな。……そう不平面をいたすなら云ってやるぞ』

『云ってもらいましょう』

『貴様』――と少し弓町の老人も昂ぶって来た。

『も、もっと、前へ出ろ』

『いくらでも出ます』

『組頭のお娘に、懸想いたして居ろうが』

『いけませんか』

『付け文など、ぶ、武士にあるまじきことと思わんか!』

『……思いません、伯父上は、たしか、真宗でしょう』

『なんじゃあ? 宗旨がどうしたというのか』

『祖師親鸞でさえしたことです』

『た、たわけめ!』

三

中里御鳥見組頭の阿部白翁は、近年はもうお野駈の供にも従いて行けなかった。