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びしょう

微笑

豊島 与志雄

「雄弁」1919(大正8)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,995 字 · 43 页

青空文庫

然しそういうのは、当時の私を包んでいる雰囲気であって、心の底には私は二つの考えを持っていた。

その一――今の社会の状態に在っては、誰も彼もが欠伸をしている。金持ちも貧乏人も、忙しい者も閑な者も皆同じような一日一日をつみ重ねていって、それで一生の墓を築いている。こういう風にして世の中が続いて行ったら、遂にはどうなるだろう。皆が欠伸と倦怠とのうちに死滅するようになったら、どうだろう。考えてもたまらないことだ。凡そ憂欝な退屈くらい人間を毒するものはない。それに今の社会は、全くこの事に侵されてしまっている。このままでいいものだろうか。

その二――今の社会では、皆が何かしら歯をくいしばっている。皆不満なのだ、皆何かしら満たされない慾望に囚われているのだ。所がそれが次第に昂じてきて、この頃ではもう、何に不満であるか何の慾望に駆られているのか、それが分らなくなってしまっている。そして彼等にはただ、くいしばった歯と齷齪した生活と疲れながら陰欝に光ってきた眼だけが残っている。中心が盲目で外部が猛獣なのだ。このままで進んでいったらどうなるだろう。これでいいものだろうか。