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てっしたこじんしゅぎ
徹した個人主義
佐藤 春夫
「神港新聞」神港新聞社、1959(昭和34)年5月4日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 880 字 · 2 页
その後も丈夫でまた用心深い先生だからそう心配することはあるまいといいながらも心配していたが、ついに悲しい死の知らせを聞いた。しばらくお目にかからない僕としてははなはだ心残りだ。聞けば、朝、先生のお宅へ行った人が、永眠している先生をはじめて見出したとか。徹底的な個人主義者で、人の世話にもならず、人の世話もしない先生らしい。悲しく、寂しい亡くなり方を、いかにも先生らしいと悲痛なものと思うが、老衰のはて静かに瞑目されたのでもあろうか。
僕のお目にかかっているころ(二十年前)から用心深い先生はいつも遺書と身元の明らかなものを懐中にして「いつ、どこで行き倒れになってもいいようにね」と悲しい戯れをいっていたものであったが、平素から用意の遺書は毎年、年のはじめに書いておくという話であったし、こんども必ず死後のことなどこまかく記された何かがあるのではないかと思われる。