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しんじゅう
心中
「中央公論」1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,515 字 · 17 页
お金を知っている人は沢山あるが、こんな事をはっきり覚えているのは、これも矢っ張僕一人かも知れない。癖と云うのはこうである。
お金は客の前へ出ると、なんだか一寸坐わっても直ぐに又立たなくてはならないと云うような、落ち着かない坐わりようをする。それが随分長く坐わっている時でもそうである。そしてその客の親疎によって、「あなた大層お見限りで」とか、「どうなすったの、鼬の道はひどいわ」とか云いながら、左の手で右の袂を撮んで前に投げ出す。その手を吭の下に持って行って襟を直す。直すかと思うと、その手を下へ引くのだが、その引きようが面白い。手が下まで下りて来る途中で、左の乳房を押えるような運動をする。さて下りたかと思うと、その手が直ぐに又上がって、手の甲が上になって、鼻の下を右から左へ横に通り掛かって、途中で留まって、口を掩うような恰好になる。手をこう云う位置に置いて、いつでも何かしゃべり続けるのである。尤も乳房を押えるような運動は、折々右の手ですることもある。その時は押えられるのが右の乳房である。
僕はお金が話したままをそっくりここに書こうと思う。頃日僕の書く物の総ては、神聖なる評論壇が、「上手な落語のようだ」