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いかりのむし
怒りの虫
豊島 与志雄
「群像」1951(昭和26)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,457 字 · 24 页
由美子と木山との仲は、塚本もうすうす察知しているだろうが、元来女というものを軽蔑しきってる彼のこととて、どういう家庭生活になるか分らないのである。それが怖い、と由美子は言った。塚本が引越してくる期日は、まだはっきりしなかったが、近いうちにとの通告があった。その通告は、由美子に覚悟を強要するものだったのである。
彼女は眼を見据えて木山に言った。
「あなたに愛情があるなら、家を出てしまえと、なぜ仰言って下さいませんか。わたしは、その一言が、あなたから聞きたかった。」
「それは、愛情とは別問題ですよ。家を出てから、どうするつもりですか。」
「わたし一人なら、どうにか暮してゆけるでしょう。あなたに御迷惑はかけません。奥さまに御迷惑もかけません。」
「金銭のことを言ってるんじゃありませんよ。人間としての生活のことです。」
「体面のことを仰言るんでしょう。世間の体面と、愛情と、どちらが貴いんでしょうか。」
「そんなこと、今の問題じゃありません。僕ははっきり言っておきますが、あなたを愛しております。だから、あなたの正しい生き方のことを考えてるんです。」
「正しい生き方……。