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おもいでぐさ
思い出草
岡本 綺堂
「木太刀」1910(明治43)年11月、1911(明治44)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,303 字 · 11 页
今日でも俳句その他で、茶立虫という文字を見ると、夜露の多い大道に坐って、茶立虫を書いていた浪人者のような男の姿を思い出す。江戸の残党はこんな姿で次第に亡びてしまったものと察せられる。
八 長唄の師匠
元園町に接近した麹町三丁目に、杵屋お路久という長唄の師匠が住んでいた。その娘のお花さんというのが評判の美人であった。この界隈の長唄の師匠では、これが一番繁昌して、私の姉も稽古に通った。三宅花圃女史もここの門弟であった。お花さんは十九年頃の虎列剌で死でしまって、お路久さんもつづいて死んだ。一家悉く離散して、その跡は今や坂川牛乳店の荷車置場になっている。長唄の師匠と牛乳商、自然なる世の変化を示しているのも不思議である。