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おもいでぐさ

思い出草

岡本 綺堂

「木太刀」1910(明治43)年11月、1911(明治44)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,303 字 · 11 页

青空文庫

暮の二十日頃になると、玩具屋駄菓子店等までが殆ど臨時の紙鳶屋に化けるのみか、元園町の角には市商人のような小屋掛の紙鳶屋が出来た。印半纏を着た威勢の好い若衆の二、三人が詰めていて、糸目を付けるやら、鳴弓を張るやら、朝から晩まで休みなしに忙しい。その店には少年軍が隊をなして詰め掛けていた。

紙鳶の種類も色々あったが、普通は字紙鳶、絵紙鳶、奴紙鳶で、一枚、二枚、二枚半、最も多いのは二枚半で、四枚六枚となっては小児には手が付けられなかった。二枚半以上の大紙鳶は、職人かもしくは大家の書生などが揚げることになっていた。松の内は大供小供入り乱れて、到るところに糸を手繰る。またその間に、娘子供は羽根を突く。ぶんぶんという鳴弓の声、戞々という羽子の音。これがいわゆる「春の声」であったが、十年以来の春の巷は寂々寥々。往来で迂濶に紙鳶などを揚げていると、巡査が来てすぐに叱られる。

寒風に吹き晒されて、両手に胼を切らせて、紙鳶に日を暮した二十年前の小児は、随分乱暴であったかも知れないが、襟巻をして、帽子を被って、マントに包まって懐手をして、無意味にうろうろしている今の小児は、春が来ても何だか寂しそうに見えてならない。