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おもいちがい

思い違い

山本 周五郎

「朝日新聞 PR版」1964(昭和39)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,487 字 · 5 页

青空文庫

人間が老境に達すると、経済的にも家族的にも安定ができて、生活は好ましい状態になる。大概なはなしであるが、事業に成功し富に恵まれた人たちにとって、最後に残った欲望はその状態の存続であり、単直にいえばなが生きをすることである。これ以上ことこまかに指摘するのは意地わるというものだろう。そこでもういちど云うのだが、老境に達したら、若い女性などに近づかないのがよろしい。それは残りの活力を吸い取られることであり、役にも立たない昂奮によって、身心を消耗するにすぎないからである。

ひところ肺病の治療に、石油の飲用が流行した。癌の治療には藤の瘤が最上だ、といわれたことは現在なお一部に信じられているらしい。けれども、医学の通俗知識に詳しい人士は、そのどちらも信じてはいないだろうと思う。老人になったらみだりに若い女性に近づくな、それはあなたの残り少ない生命力をも吸い取られることうけあいだからである。――健康で若い、情熱に充ち満ちた女性たちよ、どうか私の妄弁を赦して下さい。

「朝日新聞 PR版」(昭和三十九年十二月)