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あやしのもの

怪しの者

国枝 史郎

「日本伝奇名作全集4 剣侠受難・生死卍巴(他)」番町書房、1970(昭和45)年2月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,259 字 · 25 页

青空文庫

その間に西条様や藩士の方々は、鶴吉の息の根を止めようとしました。でもわたしは制止しました。

「どうせ死んで行く人間です、静かに死なせてやって下さい」

見れば鶴吉は断末魔に近い眼を、わたしの眼へヒタとつけて、物言いたげにしておりました。そこでわたしは近寄って行って、耳に口を寄せてささやきました。

「言いたいことがあるなら言うがいい」

「乞食に計られて死んだとあっては、オ、俺は死に切れぬ。頼む、明かしてくれ、お前の素性を」

「もっともだ、明かすことにしよう。……尾張家の附家老、犬山の城主、成瀬隼人正の家臣、旗頼母、それが俺だ」

ここで私は言葉を改め、「貴殿のご姓名なんと申されるかな?」

「…………」無言で首を振るのでした。

「隠密として事破れし以上、姓名は言わぬというお心か。ごもっともでござる」

この時突然屋敷内から、火の手が立ち昇りました。

「火事だ!」

「大変だ、作事場が燃える!」

人々は叫んで走って行きました。

「鶴吉殿」と耳に口を寄せ、またわたしはささやきました。

「貴殿をこの地へ遣わした、そのお方が心にかけられた、宗春様ご建造の禁制の大船、ただ今燃えておりまする。