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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

「お蘭が! わッ、その風は!」

お蘭は、男の着物、それも襤褸のような着物を纒っていた。

「これ、権の着物よ、三国峠の権の……」

「権の? じやア手前、……」

「逢ったの、権と。……風呂で……」

「ヒエーッ、それじゃア手前、体を、権に! ヒエーッ、嫁入り前の体を!」

「何云ってるのよ。権、いい人だわ、恥ずかしがり屋だわ。悪人じゃアないわ。妾の眼に狂いはないわ! ……助けてやらなけりゃア! 捕られちゃア可哀そうよ」

「手エ付けなかったと? お前へ!」

(本当だろうか?)

(本当ならどんなに有難いことか!)

と思う心の裏に、そんなことのあろう筈がないという不安が、すぐに湧いて来た。

(兇悪で通っている三国峠の権が、若い娘と、人のいない風呂で……)

ムラムラと疑惑が募るのであった。

でも、彼は、娘が、ひたむきに権を助けようとして焦心るばかりで、権に対し、怒りも悲しみも怨みもしていない様子を見ると、やはり権が、自分の娘へ毒牙を加えなかったことを、認めるより仕方がなかった。

(好きな許婚の進一と、一月先になると、夫婦になることになっている娘だ、それが泥棒に……そんなことをされようものなら、泣き喚き怨み憤るは愚か、突き詰めた心で、首を絞るぐらいのことはやるだろう。