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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

と門の開く音がして左側の家並の一所からふと人声が聞こえたかと思うと老武士の姿は見えなくなった。

「…………」

三人は黙って顔見合わせた。それから静かに足を運び老武士の姿の消えた辺まで用心しながら近付いた。

道場構えの一宇の屋敷がそこに広々と立っている。森然と四辺は物寂しくもちろん燈火の影さえもない。三人はしばらく彳んだまま余りの不思議さに言葉も出ない。彼ら三人は三人ながらこの辺の地理には慣れている。そしてほとんど毎日のようにこの往来も通っているのである。それにもかかわらずこんな所にこんな立派な道場屋敷の建っているということを一度もこれまで見たことがない。

「どうも不思議だ」とまず主馬が朋輩の一人へ話しかけた。「たしかここには柏屋という染め物店があった筈だのに……」

「さようさ、全く不思議だの」話しかけられた主馬の朋友の南条紋太郎が頷きながら、「しかも拙者は今日昼頃たしかにこの前を通った筈じゃ。そしてその時はその柏屋がちゃんと店を開いていたのじゃ。いかに大江戸は素早いと云ってもものの一日と経たないうちに格子造りの染め物店が黒門厳めしい武家屋敷となるとはちとどうも受け取れぬ話じゃわい」